旅をする本

プロジェクトについて

 故 星野道夫氏の著作「旅をする木」が、世界中を旅する人たちの間で読み継がれ、バックパッカーたちの愛読書となっていることはよく知られています。

 ある時、ひとりの旅人が、ちょっとしたいたずら心から「旅をする木」の”木”に横棒を入れて”本”と変え、「この本に旅をさせてやってください」と記しました。すると、その本は旅人の手から手へと渡ってゆき、普通の本では到底行けないほど遠くまで「旅」するということが起こりました。途中、手に取った旅人たちにとっては励ましになったり、お守りだったり、故星野氏が共に旅をしているような気持ちになった人もいたのだとか…。

 「旅をする本」プロジェクトは、旅人をはじめ多くの人々にインスピレーションを与え続けている「旅をする木」を、もう一度「旅をする本」として、旅立たせてあげたいという思いから始まりました。星野道夫氏や今井美術館ゆかりの方を中心に「旅をする木」をお配りし、感想をサイトに書き込んでいただいた後、次の方に本をお渡ししていただくことで、本に旅 をさせることができるのではないか、と考えました。みなさんの感想、その本がどんな軌跡を辿ったかをネット上で閲覧できる仕組みを作成しています。

 「旅をする木」に込められた冒険心や「もうひとつの時間」への意識が、たくさんの人につながることを願っています。

旅をする本プロジェクトによせて
 今井美術館さんとのお付き合いは、2016年夏よりスタートした巡回写真展「没後20年 特別展 星野道夫の旅」を2017年に開催していただいたことから始まりました。亡くなって22年が経っても、このように星野道夫の作品を皆様に届ける機会をいただけることは、本当にありがたいことと感謝しています。
 エッセイのタイトルになった「旅をする木」は、星野の愛読書であった「Animals of the North」に書かれている、Traveling treeの物語にちなんでつけられました。鳥に運ばれたトウヒの種子が、さまざまな偶然をへて川沿いの森に根づき、いつしか一本の大木に成長しますが、ある日洪水にさらわれ、川を旅し海へと運ばれ、最後はツンドラ地帯の海岸にたどり着きます。打ち上げられたトウヒの大木は、そこで生きる極北の動物たちや人々に使われていきます。長い歳月を経て最後は薪ストーブの中でその命は終わっても、燃え尽きた大気の中から、生まれ変わったトウヒの新たな旅が始まってくという物語です。
 「旅をする本プロジェクト」によって運ばれた種がさまざまな旅を重ね、届けられた方々の心のなかでどのような物語を紡ぎ、そして新たな旅へと繋がっていくのかをとても楽しみにしています。
ごあいさつ
 2017年に、以前よりお付き合いのある、写真家の荒木則行さんのご紹介で、星野道夫さんの写真展を開催することになりました。島根県の中ほど、江の川のほとりにある小さな美術館ですが、多くの地元の方はもちろん、星野さんのファンの方々も、本当に遠くから来館いただきました。期間中に、小説家で星野さんのご友人の松家仁之さんにギャラリートークに来ていただきました。その際に、松家さんから、「最近の若い方の中には、星野さんを知らない人も出てきている」とのお話があり、その言葉が、私自身ずっと気になっており、微力ながらでも、若い人達にも、星野さんの残した作品を知っていただくための、お手伝いができないかと考えました。それが、旅をする本プロジェクトです。
 星野事務所様と協力して、ファンの方や、新たに星野道夫さんを知っていただいた方々に楽しんでいただける場としていきたいと思います。至らない点や改善するところは、多々あると思いますが、皆様にご支援頂きながら、星野さんの写真や著作が、一人でも多く方に広がっていけば、幸いと考えます。
 「旅をする木」が、この”旅をする本”の企画により、どんどん成長し、より大きな「旅をする木」になってくれるようにと思っております。 どうぞ、よろしくお願い申し上げます。