旅をする本

#006
さらに登ると、急に目の前がカール状に開け、ワタスゲの草原が広がっていた。白いワタ毛は白夜の光を浴びて金色となり、無数の宝石のように輝いていた。ぼんやりとあたりを眺めていると、遠くの山の肩から、点のようなカリブーが次々と現れてくるではないか。稜線上の点は次第に太い線となり、やがて黒い帯となって山の斜面を埋め尽くし、まっすぐこちらに向かってくる。
ぼくたちはあわてて駆け出し、ワタスゲの中に飛び込んで身を伏せた。ハーハーと白い息を吐きながら、ザックを肩からはずし、そのまま夏草の上に寝転んだ。夏のツンドラの香ばしい土の匂いがした。晴れあがった白夜の、深い青空がどこまでも広がっていた。頭の中がシーンとし、じっとしていれば、カリブーの群れがぼくたちの上を音もなく通り過ぎてゆくような気がした。
Selected by 庄司絵里子 (編集者:福音館書店)
旅をする木 - 白夜
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